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2022/07/08

上を向いて歩こう5の2特別編

構成・文/団田芳子


「上を向いて歩こう」特別編。看板のオーソリティをお迎えして、商店街の看板を見て歩く後半です。


粉浜商店街


ゲストの綿谷登さんは針中野生まれで、看板屋さんの息子さん。

幼い頃、看板の取付の手伝いで、梅田や難波の映画館に行くことも多く、映画好きに。


映像を学びたいと京都芸大(京都市立芸術大学)に進み、家業は弟さんに任せて大手テレビ局に入社。数々の人気番組をプロデュースされてきました。


現在は、大阪芸大の先生として、また空間デザインからグラフィックデザインまで広範なアートプロデュース・ディレクションを手掛けておられます。


そんな綿谷さんの目に映った粉浜商店街。


前半では、1つ1つの看板に向ける目の付け所にビックリしたり、街の景観、町おこしに繋がるアイデアなども飛び出してワクワク。


さて、後半は―。





2番街に入ってまず綿谷さんの目がピカリ! 


『井川とうふ店』の前を行ったり来たり。そして正面に立って、


「これが一番仕事してますね!」

とショーケースの奥の左手の“創業明治後期 名代井川 手造りとうふ”という看板を指さした。


よく見れば、ここには正面の“活活とうふ”大書した大看板のほか奥の暖簾、そして左奥と3つの看板がある。


井川とうふ


「正面はもちろん一番大きいし目立ちますが、前まで来ないと見えません。


左手奥のは角にそって緩くカーブしていて、住吉大社側から来る人に『こんにちは』と挨拶してくれるんです。店主をバックアップしてウェルカムな気持ちを表現している。


しかも豆腐の白!


井川とうふ


ここはこだわりのある豆腐屋さんだとお見受けしますが、大豆がどうのと蘊蓄を語るとむしろつや消しになる。ただ白い看板で、豆腐を表現する強さがいいです!」と絶賛。


「こんな風に角に添ってカーブさせた看板はあまり見掛けません。でも、商店街は通り過ぎる人にアピールしてこそ。正面まで来るまで何屋か分からないことが多いけど、これはいち早く存在をアピールできてます」。




続いて、足を留めたのは『福田蒲鉾店』


福田蒲鉾店


「木の欄間がいいですね。質実剛健な気概を感じます。揚げ物の色と合わせた天然木の味わい。カラーリングが出来てます」。




さらに『お菓子のデパート よしや住吉店』で。

店舗入り口上の壁面に飾られたお菓子のパッケージが綿谷さんのハートをキャッチ。


お菓子のデパート よしや住吉店

「巨大化したきのこの山、面白いですね。僕なら箱の後ろから子どもが顔を出しているイラストなんか足したくなりますね」。



店内は鏡が多用されている。

「ミラー効果を活用して広くみえますね。さらに殺風景になりがちな天井にも赤いスティックを並べて面の効果を出しつつ賑やかさも演出できています。賑やかで楽しい雰囲気が上手に作られていて、よく考えられていますね」。

お菓子のデパート よしや住吉店




そして、ブティック『AMAZON』の前で。

「陳列が店名通りジャングルのような雰囲気を醸し出してユニークです」としつつ、2番街と1番街の間の四つ角を子細に点検する綿谷さん。

ブティックAMAZON



これまでも「角は大事」と指摘されていた。


4番と3番の角でも、

「ちょっと殺風景ですね。角に粉浜のキャラクターでもいるだけでもすごく変わるんですが」と。


ところがここでは。


「がんばっている角。ここにオーラが立ち上ってますよ。ここがずんべらぼうだったら寒々しいものですよ。『AMAZON』『補聴器専門店』、それに『コアラ不動産』のコアラの人形で活気が作り出されている。粉浜商店街で一番いい角ですね」。


ブティックAMAZON





1番街では、『すし 聖月』の看板を見上げ暖簾を触って綿谷さん、ふむふむと頷く


すし聖月


「看板は仏像風に下を向いて語りかけているし、暖簾の生地も上品ですね。何より文字がいい」。


それを聞いて店主の足立和隆さんが嬉しそうに、「筆文字は全部僕が書いたんです」と笑顔を見せた。


何と書道歴50年!

看板はもちろん幟やメニューも足立さんの手書きを使っているそうな。


「文字には人が出ますからね。ご主人はすべてをここでさらけ出しているようなもんですね」と綿谷さんが云えば、


足立さんは「信用してもらってナンボですから。お客さんと仕入業者に信用してもらって、その真ん中におるだけなんで」。


その言葉に綿谷さん、感じ入ったように「真っ正直な人やと文字からも分かります」。


すし聖月



さらに「店内の壁の煤竹、暖簾、ご主人の文字、随所にご主人の息吹がいきていて、考え方に筋が通っているのが分かる」と大絶賛。


ついでに店内の金色の招き猫も「ええ仕事してますね!」と。

「はい!節分には1000人近いお客さんに来てもらってるのも、このネコのお陰かも」と足立さんもニッコリ。

すし聖月





続いて、最近少し移転して広く立派になった『寺田園茶舗』へ。


寺田園茶舗


「いい看板ですね」と見上げていると、店主の寺田さんが「これ、足立くんに書いてもらったんです」と云うから綿谷さんもビックリしている。

足立さんと寺田さんは高校時代の同級生とのこと。「良い繋がり、ご縁ですね」と綿谷さんはほっこりしたご様子。





ふと気付けば、2時間歩きっぱなし、綿谷さんを立たせっぱなしだった。

「え?そんなに経ってましたか。光り輝いているお店がたくさんあって、本当に楽しく歩かせてもらいました」と、どこまでも気さくで快活な綿谷さんであった。


さて、粉浜商店街をじっくりと見ていただいたご感想は、と改めて問うと綿谷さん、とうとうと言葉があふれ出す。


15_20220708145513017.jpg


「商店街は通り道でもあるから、特性としてお店は通りに向いてるけど、お客さんは店に向いて歩いていないわけです。お客様の視線と合うのは店の前まで来てから。そこで初めてご対面となる。


だから、そのご対面をなるべく早くしたい。そのための突きだし看板、通りにちょっと出すA型看板があるわけでね。


そういう意味でも、『井川とうふ店』さんのあのアイデアは凄いです。お店の中にああいうアール型の看板があるのは画期的です」。


「自分の店をどう見せたいか、どのように伝えたいか。売り物はあるけど、商品を通じて伝えたいこと、世界観、メッセージが醸し出されているかが大事」と綿谷さんは強調する。


「たとえば『すし 聖月』さんなどは素晴らしい。エエ字やなと思って訊ねたらご自分の文字。奇をてらうのではなく、寿司に向かう心意気が伝わってくる文字です」。


『AMAZON』さんも看板の横に観葉植物を飾ってアマゾン感を演出してたり、


『こびとのクローゼット フジヤ』さんの子どもが喜ぶ遊園地風などは、世界観がしっかり構築されてましたよね」


『手打ちうどん みやこ・広州』さんも、デザイン的に整理されたものではないけど、意気込みや優しさ、おもてなしのメッセージが伝わってきました」


「看板は店の佇まいと一体になっていないとね。看板にだけお金掛けてもしょうがないんです。そして、もっと云うと1店舗ごとではなく、商店街がスクラムを組んで、通りが全部物語として繋がっているのが理想です」


「例えば、お茶屋の看板を寿司屋さんが書いた。お茶屋はまたほかの店に何か協力する。そんな文化、情報がリレーしていければ、商店街はもっと楽しくなるはず」


粉浜商店街



「商店街はトンネル。お客を逃がさないのではなく、みんなで包み込む。大きなストーリーを作っていくんです。そこにはイベントも発生するでしょう」。


「ここには住吉大社があって、その大きなパワー、文化がある。粉浜でしか考えられないことを大事にしながら発信していかねば。それはここに住み続けている人でなければできないことです」。


看板を超えたお話しに発展したけど、商店街ができることが山ほどあるように感じられてワクワクする


「これだけ原石がいっぱいあれば、色んなことができますよ!」


そのアドバイスを胸に、皆さまに楽しんでいただける商店街の物語を紡いでいきたいと思います。



大阪芸術大学客員教授、舞台美術家、一般社団法人・日本舞台美術科協会理事 西日本支部長 綿谷登



綿谷 登 さん

大阪芸術大学客員教授、舞台美術家、一般社団法人・日本舞台美術科協会理事 西日本支部長




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2022/06/24

上を向いて歩こう5

『出没!アド街ック天国』観ていただけましたか? 

粉浜商店街入り口


あ、あの店、あのオッチャンが映ってる!とお馴染みの場所や人がいっぱい登場しました。
一方で、案外地元の人間が「へぇ」と思うようなネタもあったりして、面白かったですね。

商店街にも遠方からのお客様も大勢いらしたようで、「『井川とうふ店』はどこですか?って何十人にも訊かれましたわー」と案内嬢役を務めた『すし聖月』の女将さん。

『おかずのじゅん』のじゅんさんは「僕が映ったのはほんの5秒くらいやのに、おからがホンマによぉ出まして。いつもは1週間に1度炊くのに、1日に2回炊いても間に合わないくらい大忙しでした」と嬉しい悲鳴。

ゴールデンタイムの全国放送の影響力、凄まじいですね。




“上を向いて歩こう” その5
構成・文/団田芳子

 さて、今回は「上を向いて歩こう」特別編。
看板のオーソリティをお迎えして、商店街の看板を見て歩きます。


粉浜商店街



 ゲストに迎えた綿谷 登さんは、大阪城近くの某テレビ局のプロデューサーとして人気番組を数々手掛け、また大阪芸術大学で客員教授として「劇空間デザイン」「アートマネジメント」などを指導しておられる方。

というとお堅い先生かと思いきや。

実は針中野生まれの看板屋の息子さん(家業は弟さんが継いでおられるとか)で、

「昔、映画館の入り口の上にでっかい手描きの絵看板が掲げられたでしょ。親父はあんなんを若い頃手掛けてたようですわ」と大阪弁で軽快に話す気さくな方です。 

綿谷登さん


 『上を向いて歩こう』企画のことをお話しすると、
「それは面白い! 下町の商店街、大好きです!『やろく』さんにコロッケを食べによく行きましたよ」と気軽にお出ましくださった。

その目に粉浜商店街はどう映ったのでしょう。
 
1つ1つの看板に向ける目の付け所にビックリしたり、街の景観、町おこしに繋がるアイデアなどもあふれ出す綿谷さんのお話しを2回に渡ってお届けします。




南海本線粉浜駅側から突入! 
わいわいロードを入ってすぐの『居酒屋 一(かず)』の一升瓶型の陶器の看板にビビッと反応する綿谷さん。

居酒屋一(かず)


「これはいいですねぇ。店内の雰囲気をイメージさせる。隣の竹も中に灯りを入れて竹燈りにするのもいいんやないかな。竹は今嫌われ者で手に入りやすいですよ」。

 えーと『上を向いて歩こう』企画なのですが…。

「看板は必ずしも上につけなあかんわけやないですからね。ファサードをトータルで見ましょう。看板は主役か脇か。どっちもアリですよ」。




合流点の広いスペースに足を止める。



粉浜商店街ファサード


「ここはもったいないですね。天井も高いしイベントなどできるように作ったのかな。すぐ横に小学校があって子供らが通るなら、子どもが遊びに来る場にしたらどうでしょうね」。





一際明るい雰囲気の『牛良』※詳細は2021年10月15日に)は「テントが可愛らしいですね」。

牛良


ちょうど店先に居た2代目が「ああ、これは太陽光がショーケースに反射して商品が見にくいとオジイチャンが付けたもんです」とニッコリ。

「実用とともに大事なポイントはテントの下にいるとショーケースに集中させることができる点。

例えば天井の高い寄席はないんです。天井が低い方が話芸に集中する。フィスティバルホールなどで落語はやらないでしょ」。

へぇ、なるほど。

「それに、1枚でなく三ツ羽になってるのがいい」。これは隣の店2軒分、後から広げたためらしいが、「同じ赤いテントが3つ続くことで1軒のお店という繋がりが作れてるんですよ」。






 粉浜商店街5番街に出ると、綿谷さんの目を奪ったのはやはり漬物の『とみい』の看板(※4月15日の記事参照)。

漬物とみい


「立派な木ですね。これ少し下を向いてるでしょう。仏像と同じで、この傾きが語りかけてくるんです」。

よく見れば、多くの看板がやや下に向けて…語りかけている。

「奥の2枚もいい味出してますやんか。それに床柱に使うような柱とタイルも可愛いなぁ」。






荒物の『ヤスダ』のイラストや呉服の『こころや』の世界観の表現、宝石の『ジュエル菊川』の遠近法を活用したファサードなど「いいなぁ、愉しいなぁ」とご機嫌の綿谷さん。


荒物ヤスダ



ジュエル菊川







 『サイドディッシュわ』※詳細は2021年10月2日)では、

「電球がいいね。スポットライトより遙かにいい。奥に向けてあと3コほど電球つけたらぐっと店内に引き込めると思いますね」。

サイドディッシュわ







そして、手打ちうどんと中華の『みやこ・広州』の前で。

「手打ちうどんの打ち台の前に小麦粉の大きな袋が積まれてある。大切なうどんを作る行程を想像させるし、お店を舞台に見たててる。エンターテインメントを感じます」。

みやこ・広州


そして「バリアフリーにした入り口、手摺りまでつけててお年寄りにも優しいですね。
『あの店は私らを大事にしてくれてる。また行きたい』と思わせるでしょう。演歌歌手のポスターとかもあって、この店の方は言いたいこと、表現したいことがいっぱいあるんでしょうね。アイデアを山ほど感じます」






4番街に入ると、鮮魚の『赤吉』※詳細は2021年10月15日に)の鯛の絵の木看板を絶賛。

鮮魚赤吉






蒲鉾の『山久』の「暖簾と店舗の雰囲気が一体化していいですね。レトロな配電盤もいい」。

蒲鉾山久


「いやもう古くて恥ずかしいわ」と仰るお店の方に「いやいや僕ならこの配電盤にオレンジのスポットライトを当てたいくらい。奥の機械も電球を吊って見せたいですよ」。






さらに『おかずのじゅん』※詳細は2021年10月2日)では、「可愛いカーテンから覗く背の高いお兄ちゃんの笑顔がトータルで看板になってますね」。

おかずのじゅん





そして子供服の『こびとのクローゼット フジヤ』の前で
「いやぁ、これはいい!」と綿谷さん。遊園地がコンセプトと聞き、「うん、店先に並んだ靴までお伽の国の靴のように見えてきます。壁も温かいオレンジ色で、全体にテーマパークのよう。よく出来た店舗ですね」。


こびとのクローゼット フジヤ





 さてこの後、2番街1番街ではどんな看板が綿谷さんのハートを捉えたのか。また粉浜商店街総評もお聞きします。次回もお楽しみに。



綿谷 登 さん 
大阪芸術大学客員教授、舞台美術家、一般社団法人・日本舞台美術科協会理事 西日本支部長







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2022/05/27

上を向いて歩こう4

構成・文/団田芳子


粉浜商店街の歴史を看板に見る! 
「上を向いて歩こう」シリーズ第4弾です。



渋カッコイイ系
「漢方・調剤 ミカワ薬局」


デザイン化された「漢方」の2文字がカッコイイ。

漢方・調剤 ミカワ薬局1




設計士さんに、どこかで見た看板をお見せして、 「こんな感じにとお願いして作っていただいたものだったかしらね」。 

店主の川邉隆子(りゅうこ)さんが記憶を辿るように首を傾げた。

40年近く前になるという創業のころの話だ。




漢方・調剤 ミカワ薬局2




白衣姿の川邉さんは薬剤師。
ここはドラッグストアとは異なる薬店だ。

「商店街を通るおばあちゃんがたまにいらっしゃるけど」


お客様は全国に広がっていて、 ネットを通じてさまざまな相談が寄せられるという。 

どんな相談が多いのだろう。

「うーん、様々ですね。便秘、胃腸のお悩み、リウマチ、ダイエットのご相談も多いです」。

それぞれの体質と症状に適した漢方薬を調剤し、発送する。




漢方・調剤 ミカワ薬局3




川邉さんは、薬科大学卒業後、総合病院で薬剤師として12年勤務。
昭和58年に、ご実家の近くのこの商店街に開局されたそう。


以後、日本古典漢方、中医学を研究され、日本漢方交流会師範でいらっしゃるとか。




漢方・調剤 ミカワ薬局4




ホームページを覗くと、自身の体質について実に細かい質問項目がある。

寒がりか暑がりか、性格は?
喉が渇きやすいか、汗かきか などなど。

こういった質問の答えで体質などを総合的に判断されるのだなぁと感服。

商店街の中に、健康相談ができる漢方薬店が存在するのも、歴史ある粉浜商店街の魅力の1つですね 。



1番街 9:30~17:00 木曜、土曜、日曜定休



漢方・調剤 ミカワ薬局5



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「この取組みは大阪府商店街等モデル創出普及事業の一環で実施しています」

 
2022/05/13

上を向いて歩こう3

構成・文/団田芳子


粉浜商店街の歴史を看板に見る! 
「上を向いて歩こう」シリーズ第3弾です。


ほんわか和み系
「文栄堂」

手書きなのかな。
上品な筆致で「文」「栄」「堂」と3枚のパネルが掲げられている。

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「隣の人が書いてくれたんよ」とは、店主の森本輝(てる)さん。御年87才と聞いて驚いた。
 
背筋がシャンと伸びて、お客様にもシャキシャキと対応されていて、恥ずかしそうに写真に映ってくれる笑顔もお可愛らしくて。

つい“テルさん”と呼びかけたくなるチャーミングな方だ。

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そんなテルさんが、隣の人というのは、いま『フラワーショップ ハナキ』さんが入っているお店の家主さんだそう。

「もう亡くならはった先代やけどね。器用な人で」。

10年以上前、お花屋さん以前にあった隣の店の看板がステキで、「僕が書いたって言わはるから、『うちのも書いてぇな』って頼んだんよ」。

目立つわけではないけれど、何だかほのぼのと温かみのある看板だ。

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「90年も経つ古い家やから、写真に撮られるの恥ずかしいわ」
とテルさんは言うけれど、ほこりひとつないきれいなお店だ。

並んでいるのは、文房具。ノート、便せん、封筒、折り紙、祝儀袋と紙類が多い。

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「うちは初めから文房具屋と違うねんよ。紙の卸しをずっとしてるから。この店も元々はほら、このちり紙だけ置いてたんよ」。

見れば、棚の上に様々な種類のちり紙が並んでいる。

ちり紙!何と懐かしい。

筆者が東粉浜幼稚園に通っていた頃、トイレの中に、四角いカゴがあってちり紙が積んであったことを思い出した。今ではロール状に巻いたトイレットペーパーしか見なくなったから若い世代はご存じないかもしれない。

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一体いつからちり紙は姿を消したのか。

ちょっと気になって調べたら、1973年の第一次オイルショックのときは、まだちり紙の方が多く使われていたのだそう。逆転したのは1977年。「トイレの水洗化」が理由らしい。

「でもね、ちり紙の方が流しやすいねんよ。トイレットペーパーは2回流さんとあかんときあるでしょ」とテルさん。

なるほど確かに。だから、今もちり紙を愛用している方がここに買いにくるらしい。

ちり紙は岐阜県のメーカーから直接仕入れ、100坪の広大なお家に設えた倉庫に保管し、お得意先に卸しているのだとか。

「今はほんまに少しやけどね。昔は近畿で一番の紙問屋やってんよ。私もすごく働いたもん」。

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この商店街の店は、卸業の傍らちり紙を置いて小売りを始めたものだったが、「便せんないの?ペンは?糊も置いて」という声に応えるうちに、文房具屋の体になっていったのだと笑う。

いまは、ペン、糊、クリップ、各種ノート類などなど、実に多種多様な品が、それぞれのカテゴリー毎に、木枠のガラスケースや棚に、きれいに並んでいる。

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中でも店の奥の木製の紙箪笥が昭和レトロでオシャレ! 
いろいろなサイズの紙が収納できるよう大小様々な、でも紙用だから1段が浅く作られた専用の引き出しがたくさん付いている。開けてみると、のし紙や給料袋などがきちんと収められている。

のし紙B5版1枚15円、A4版18円。

「のし紙1枚だけ欲しいのに、ホームセンターとかだと10枚セットでしょ。1枚からバラで売ってくれるこのお店が本当に有り難いんですよ」
とは、『こはま日和』制作委員のユウコちゃん。商店街に在って嬉しいお店の1つなのね。

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「でも、もう小学校でもノートを使わへんようになってねぇ」とテルさん。

タブレットを使うからノートが売れなくなったらしい。そう言えば、パソコンが普及して文房具屋が町から姿を消しているというニュースを見たことがある。

「私もこの歳やし、うちもいつ閉めてもええんやけど」などと言いつつ、こまめに掃除をし、定休日は仕入に出掛けるテルさんは、働くのが大好きなのだろう。

まだまだずっとお元気に、粉浜商店街の文房具屋さんを続けてくださいね!



文房具・紙 文栄堂
1番街 9:30~17:00 木曜休み



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「この取組みは大阪府商店街等モデル創出普及事業の一環で実施しています」

 
2022/04/28

上を向いて歩こう2

構成・文/団田芳子


粉浜商店街の歴史を看板に見る! 
「上を向いて歩こう」シリーズ第2弾です。





ビックリ面白系
「荒井はきもの店」

ちょっと分かりづらいかもですが。
かなり高い位置のガラスの箱の中に、巨大な――下駄が! 

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写真を拡大すると鼻緒に何やら文字が見える。 

「荒井商店 電住吉五九〇九」? 

「昔の住所は住吉やったからね」とご主人の荒井逸郎さん。
60年ほど前に先代が設置したものだとか。



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「はめ込みガラスやから掃除をするとなれば大仕事でねえ。特大下駄は、ちゃんと台は桐で、鼻緒は正絹なんですよ」とは、奥さんの泰子さん。

「桐は箪笥でも高級品でしょ。柔らかくて軽くて、割れるときも細かく割れるので下駄の材としても一級品。うちの台は98%が桐材です」。 

えーと、足を載せる本体を“台”と呼ぶのですね? 基本的なことも何も知らなくてスンマセン! 

「私も27才で嫁いでくるまでは、下駄のことなんて何にも知らなかったんですよー」とカラカラと笑う明るい泰子さんに救われる。この人なら、初心者でも安心して色々訊けるんだろうな。 




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「うちは玉出で創業して、その次男坊が戦後昭和20年代にここを始めたんです」とご主人。 

「私が嫁いで来た頃は、運動靴も置いてたんですけどね」とは泰子さん。 

安売りの大型店と競合するよりもと、下駄や草履に特化したのだとか。 

今では珍しい下駄・草履の専門店は、すみよっさんのお膝元の粉浜商店街に、とっても相応しい気がする。 




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店内の壁にはズラリと“台”が並んでいる。

白木に塗り、鎌倉彫、樺細工などなど、実にいろいろあることがよく分かる。 

「こうして様々な台を並べてあって、鼻緒も選べて、『おっちゃん、この鼻緒と、台はこれで作って』というのが戦後の下駄屋の姿。今は鼻緒を付けて売ってて、調整はできますよというスタイルが普通。うちもそうしてたんやけど」。 

台はこれがいいけど鼻緒はあっちがいいなんてことが多いし、挿げ替えるなら最初から選べる方がいいよねと、戦後スタイルに、いわば逆戻りしたのだそう。 




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黒い点々の入った台がカッコイイなぁと見ていたら、 

「これはごま竹。テレビのチャンバラ劇で、大店のダンナさんが履いてるやつ」とご主人。 

「昨日のテレビで女芸人さんが履いてたのもこれやね」。 

一瞬、映ればすぐ材までお分かりになるのね、さすがプロ。 


「塗りの台は裸足で履いて汗の跡が残らないので夏用、白木は足袋を履く冬用に使うことが多いんですよ」とか 

「台に左右はないので、歩きクセで偏りが出ないよう入れ替えながら履くことができて、その分長持ちするんよ」とか、泰子さんによる下駄や草履の豆知識が一つひとつ興味深い。 





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好奇心のおもむくまま、色々教わっていると、着物もないのに一足欲しくなる。 

「下駄なら洋服に合わせてもカッコイイですよ」と泰子さん。 

そういえば、先日の“着物deお散歩ツアー”で粉浜にいらしたご一行の中には、洋服に足元と羽織だけ和装にしていた小粋な方もいらしたな。 

それに、「荒井さんの低反発草履は、全然足が疲れないので、なんぼでも歩ける」とかも仰っていた。 

「ああ、これね」と出してもらった草履や雪駄は、確かにふんわり柔らか。 





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鼻緒も箱に山盛りある。泰子さん手作りのカラフルなオリジナル鼻緒もいろいろ。選ぶこと自体が楽しくて、好きな人は時間を忘れてしまうんだろうな。 

台と鼻緒を決めたら、挿げ職人のご主人が、その人の足に合わせて挿げてくれる。ほんの10分ほどで完成。仕立代は無料! 




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荒井さんでは、ネット販売はされていない。ネットではサイズの微調整ができないからだそう。 

履き心地の良さは、挿げ職人の腕次第。そこに矜持がおありなのね。 


というわけで、ネット販売しない代わりに、できるだけたくさんの方に出会い、お気に入りの一足をゲットしてもらおうと、近年は、ハンドメイドのイベントや着物のフリーマーケットなど、全国におでかけ出店している。 

そうして、全国にファンができるから、遠方からこの店を目指して来る人も多いわけだ。 


「他所から来られる方に“こはま日和”をお渡ししたら、『この辺のことよく分かっていいわぁ』と喜ばれます」と泰子さんから嬉しいお言葉。次号も周辺情報満載でお届けしますね! 


イベントなどでちょくちょくお休みされるので、ホームページをご参照ください。 


荒井はきもの店 
1番街 9:30~16:30 お休みはHPにて。



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